「あの……」

人の気配の少ない図書室で、一人の少女が呟いた。
目の前のシルバーブロンドの少年は、ぴくりとも動かない。

「(死んでるみたい)」

物騒なことを、胸中で呟いてみた。
一瞬、目の前の相手の端正な眉が、ぴくりと動いた気がした。

「あたし、もう行ってもいい?」

答えない。

実は、こうだった。
同じ寮の二人だったが、実はそう仲が良いわけでは無い。
今回はマクゴナガル教授の授業で失敗した、罰を受けていたわけだ。

失敗は少女一人の責任だった。


「……なにかしら、マルフォイ」

マルフォイは一瞬顔を曇らせると、じっとを睨んだ。

「あの失敗は君のせいだ」
「そうよ。だから、ちゃんとマクゴナガル教授にもそう云ったわ」
「僕は好意で手伝ってやってるんだ」

青白い顔をピンク色に染めて、彼は云った。
はいぶかしげな顔をすると、

「あらそう」

と云って、次にこう続けた。

「でも、もう終ったわよね。寮に戻りましょう?
 あの勉強家のグレンジャーだって、もう寮に戻った時間よ?」

グレンジャーは談話室で勉強中である。

「フン」

マルフォイはそういうと、机の上の本をまとめて、片づけを始めた。
慌ててはそれに続く。

そして思い出したように、

「有難う。助かったわ。一人だったら明日までかかったもの。
 ……あの、少し、あなたを誤解していたみたい」

ピンク色だった顔が真っ赤になった。
マルフォイが振り向くと、そこに立つ少女は、優しく微笑んでいたのだ。

それが、始まりだった。
スリザリンの王子様との、壮絶な追いかけっこが始まる。



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蘭子/030318



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