(( ブ ラ ン コ ))




「何してるん?」




誰もいない公園で、あたしはぼんやりしていた。
サイズオーバーのブランコを揺らしながら。




「あ、すみません」




謝る必要なんて何処にも無いのに、あたしは謝った。
空から降ってくるような声が、あたしの考えを見透かしたように思ったから。




「謝る必要ないよ?」




関西訛り。生で聞くのは初めてだった。
その声の主は、当然だけど神様じゃなくて、人間。
自分と同じくらいの、きれいな顔した、人間だった。




「そうですね」

「あれ? 敬語? 僕のが年上やろか?」

「……癖、かな」




声の主は笑う。
あたしもなぜかつられて笑った。今、笑える状況じゃない筈。




「僕、吉田光徳。ノリックでええよ」

「あ、はい。あたしでいいです」

?いい名前やね!」

「……ありがとうございます」




声の主は、ブランコに座る。同じくサイズオーバー。
ブランコは悲鳴みたいに、キーキーと錆付いた音をあげた。




「恐い顔してたね、どないしたん?」

「あ……い、いえ」




あたしの答えに、ノリック(と呼ばせてもらおう)は困った顔をした。
そして溜息。




「ごめん、僕の悪い癖なん。何でも聞こうとしてしまうんよ」

「……そうなんですか?」

「そう。で?」

「え?」

「何悩んでるん?」




あたしはその声に、ほっとした。
今悩んでることなんてちっぽけだとは思うけど。


誰かに聞いて欲しいから。




「明日、数学のテストがあって……どうしても苦手で。
 カンニングしてしまおうかと、考えて……」




一瞬、しんとする。
それからノリックのバカ笑い。




「な、何笑ってるの?! あ、あたし真剣に…!」

「あははは、ご、ごめんごめん!」

「も、もう…ッ!」

「悪い点でもエエやん。カンニングしようか悩んで、
 いつもみたいな可愛い笑顔やなくなるんやったら」

「え?」

「そや、今度僕が数学教えるよ。それでええやろ?

「……ん、うん」




ノリックはブランコから、ひょいと身軽にジャンプした。




「ずっと知ってた。今日は心配で声かけてしまった。
 ま……仲良うしてな」




ノリックはそのまま、走って消えた。
ずっと知ってた? 可愛い笑顔? そんな、バカな……。


それでもあたしは元気になってた。








10000hitのお礼に チヨさまへ
ありがとうございました!ホントに、ホントに…!
(030910/蘭子)


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