m i r r o r


「はしゃぐな」
「はしゃいでないよ」

目の前を、ぱたぱたと少女が走る。
背格好や顔は日本人の平均女子、と俺は思う。

でも友人が云った。
そんなことはない、彼女は可愛い。ああ確かにそうだなあと思った。
照れているんだ、とその友人が云うから、じゃあてめぇはどうだよ、と思った。

「おい、落すぞ」
「落さないよ」

嬉しいもん、と、アイスクリームを食べ始める。
陳腐なドラマに出てくるような、公園のアイスクリーム屋。
甘い甘いチョコレートのアイスを注文する。

「食べないの? 三上君は」
「あ? ああ、いらねー」

残念そうなそぶりは見せない。
濃い茶色のアイスクリームが、見る見る口に消えていく。

「はしゃぐなよ」
「はしゃいでないよ」

同じ台詞を二度なんて、俺らしくないかもしれない。
でもやっぱり云いたい。

目の前の平均的な(俺が云うには)少女は、
いつもは見せないような笑顔で、アイスクリームを食べている。

「食うの早くねえか?」
「そうかな」

コーンを巻いてた紙を、近くのゴミ箱にぽい、と投げる。

「ナイスシュート」
「キーパーがいないからね」

俺の言葉にちょっとはにかんだように笑って、少女が云った。

「なあ、
「ん?」
「口に、チョコレートついてるぞ」

え?とあわてる。
普通の女子が持っているであろう、小さな鏡は彼女の鞄には無い。

「どこ?」
「ここだよ、」

彼女の口に触れる。
一瞬体が温かくなった。

「ほら、よ」
「ん。ありがとう」

駄目だね、鏡持たなくちゃ。なんて彼女が云う。
俺はなんでだよ、と呟いた。

「俺が鏡の代わりしてやるよ」
「あ、ありがと」

照れたように笑った。



蘭子/030321

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