とうとうこの日がやって来た。
やって来てしまった。招かざる日が。



(( ラ ッ キ ー プ ー ル ))



この場をお借りして、ハッキリ言わせてもらいます。
あたしは水泳が、それはそれは大の苦手です。
人類の故郷は海じゃなかったのか!?

「へー水泳苦手なん?」

帰りのHR。
担任から、来週から体育は水泳になるという連絡事項を聞いたあたしは、
それはそれはムンクの叫びの如く、絶望的な表情を浮かべた。

あたしの顔があんまり酷かったのか、
大丈夫?と声をかけてくれた隣の席の忍足くんに事情を説明した。

「そーなの。昔っからは水泳だけはダメなの」
の場合は水泳"も"やろー」

うっ。流石忍足くん、鋭い。

そう、あたしは水泳に限らず、世に言う運動音痴なのだ。
同じ人間なのに、どうしてこうもまあ差が出るんだろう。
神様は意地悪極まりない。畜生。

「なんやったら教えたろか?水泳」
「えっ!?」

そそそれはどういうことですか、あれですか。
二人っきりでプールで秘密の特訓!?その後はお茶でも・・・!

「い、いいの?」
「うん、かまへんよー。丁度岳人にも教えろせてがまれてたとこやからなー」

は?がくとって、あの岳人ですか?あのおかっぱの?あの跳ぶ人?

「え、向日もいるの?」
「うん。ダメ?」

ダメだよ!いい訳ないじゃん!
あたし達の二人っきりのデート(違います)じゃないの!?

とは口が裂けても言えません。

ここはあたし、ニッコリスマイル。

「ううん、全然いいよ!」

語尾には星マークがたっくさん。
うわー、女ってコワイ!



そんな訳で、あたしと忍足くん、
そして向日の三人で日曜にプールに行くことになった。
(今日は部活は休みらしい)

向日にはその日の放課後の部活で忍足くんが言っておいてくれたらしい。

あたしと向日はどういう訳か犬猿の仲だ。
最近は忍足くんとあたしがちょっと仲いいからってあたしにヤキモチやいてんの。



おっせーよ!」

日曜、待ち合わせの場所のマック前まで行くなり、向日に怒鳴られた。
何だよ、ギリギリじゃん!(当然うっさいって言い返してやったけど。)

「おはよー」
「おはよう忍足くん」

忍足くんってやっぱカッコイイよ。
Tシャツのミッキーマウスが何とも言えないくらい最高だよ!
メガネにはまりそう。

それからあたし達は下らない世間話をしながら
近くの市民プールまで電車に乗って行った。

「にしても向日水泳ダメだったなんてねー」
「うるせーよ!」
「意外やろー?コイツほんっとダメなんよ」
「へーそーなんだぁ(ニヤリ)」
「う、うるせーよ!そう言うだって泳げねぇんだろ!」
「うっ(ギクリ)」

市民プールはシーズンということもありなかなか混み合っていた。
あたしはこれでも女なので、忍足くんと向日とは別の更衣室へ。

あたしはバッグからスクール水着を取り出す。この水着を着るのは一年ぶり。
自慢じゃないけど、三年間ずーっとこの水着です。胸もお尻もそのまんま!
嬉しいような悲しいような・・・。複雑な気持ちです。

スクール水着は流石にやばかったかな・・・と思ったけど、
引き返すわけにもいかないんで、しょうがないのでこの水着を着る。
くそっ今更だけど、色気もクソも無い体だ!あ、クソはあるか・・・。

「うわっ、なんだよそれ!」

更衣室を出て合流するなり、向日はあたしを見て笑い出した。

「スクール水着はアカンやろ!」

忍足くん(ノーメガネ!)まで・・・!ヒドイ!
あたしも流石にやばいとは思ったけどさ!

そう言う二人はビーチボーイって感じの海パンをお召しになっている。
忍足くんは青の、向日はオレンジ色に柄が入っている。

ふんだふんだ!あたしは休日に海に行ったりはしないんだよ!

「さー泳ぐか!二人とも覚悟せぇよ・・・」

にししと忍足くんは不敵な笑みを浮かべる。
忍足くんは額の水中眼鏡で目を覆う。
ノーメガネもよかったのに!残念。

ちらっと向日を見ると、顔をヒクつかせていた。

「さー二人ともプールん中入って」

あたしはハシゴを伝ってそろそろと水の中に入る。
ひゃ〜!冷たい!

「ところで二人ともどれくらい泳げんの?クロールくらいはできる?」
「うん、クロールくらいはできる・・・かな?」
「俺もクロールくらいはできると思う・・・多分」
「なんや、二人とも曖昧やなぁ。まあ何事もやってみんと分からんからな。
 まずは二人とも10m泳いでみいや。10mくらいは泳げるやろ」

忍足くんがあまりにも当然のように言うから、あたしは勘違いして頷いてしまった。
あたしと向日は並んで、忍足くんの待つ10m地点へ向かって泳ぎだした。

バシャバシャ。

お?なかなかいけるんじゃない?
なんだ、あたしやればできるじゃない!

スタートは順調、と思いきや・・・。
うわ、何か沈んでる!!

「はあっ!」

あたしは勢い余って水を飲んでしまった。
向日も隣でゲホゲホやってる。

「何や、二人とも全然ダメなん?」

そう言う忍足くんは遥か遠くにいるような気がする。
あたしと向日はちっとも進んでなかった。

こうして、あたし達は水泳の一からみっちり教え込まれることになった。





「ゆーし、俺もう疲れた!」

お昼に近づいたころ、向日が駄々をこねた。
プールにはあたし達以外はほとんど人はいなくなっていた。

「なんや岳人、まだ全然泳げるようなっとらんやないか」
「でも俺もう腹ぺこぺこだよー」

二人のやり取りが駄々をこねる子供と
それを宥める母親のようで、実に微笑ましかった。
けど・・・

「忍足くん・・・あたしも疲れた・・・」
「なんや、二人とも根性足らへんなあ・・・」

忍足くんは不満そうにまだぶつぶつ文句を垂れていたけど、
あたし達はもうそれどころではなかった。もうヘトヘトだった。
お腹の虫がさっきからぎりぎり鳴いているんだよ。

結局あたし達はプールを上がることにした。
なんだかんだ言って忍足くんも疲れていたらしい。
だって朝から泳いでればねえ・・・。

「ゆーし、マックいこ!マック!」
「マクドナルドはマクドやろ・・・。は?」
「あたしもマッ・・・マクドでいいよ」

と言う訳で、あたし達はお昼はマック・・・もとい、マクドで過ごすことにした。
密着特訓だけじゃなくて、忍足くんとお昼も一緒に食べれるなんて幸せ!
余計なのも一人いるけど・・・。

「俺コーラとてりやきバーガーとナゲット。侑士は?」
「そやなぁ・・・俺はコーラとグラコロバーガーとポテト」
「あたしはマックシェイクとチーズバーガーとポテトとアップルパイ」
「そんなに食うのかよ」
「うるさいわねー食べ盛りなのよ」
「いつかブタみてーになるぞ」
「うっさい」

あたし達はそれぞれ注文したものを受け取り、手ごろな席へつく。
忍足くんの隣に向日が座った。くそっちゃっかり隣キープしてんじゃねぇよ。
でも忍足くんの顔みながら食べるんだからいーか♪

これちょーだい」
「うわっ何すんだよおかっぱ!」

向日はあたしのポテトに手を伸ばしてきたので、
あたしは反射的に向日の頭をぐーで殴った。

「いってぇ!この暴力女!ぼうりょくはんたーい」
「うっさい。あんたがあたしのポテト食べようとしたからでしょ」

それから向日は、トイレ、と席を立った。
やった!忍足くんと二人っきりだ!イエア!
おかっぱ野郎なんて一生帰ってくんなってーの。

「・・・お前等・・・」

向日が席を立ってから少し間を置いて、忍足君が口を開いた。

「お前等、ホント仲ええなあ」
「は!?」

おお忍足くん、今何と?
あたしと、向日が仲いいって?

「せんっぜんそんなことない!」
「またまたー。岳人のこと好きやのにー」
「は?」

何かこの人、さらりと問題発言してますけど・・・?

「ウッソ。ありえないし」
「いーや、絶対岳人はのこと好きやて」
「忍足くんもさっきの見たでしょ?あたし達仲悪いもん」

あたしはムキになって言った。
ありえないよ。ていうかこっちからお断りだよ。

「ムキになってぇ。実はも好きなんやないの〜?」

忍足くんはニヤニヤと話を煽る。
何さ何さ、そんなにあたしと向日をくっつけたいの?
あたしが向日を好きな訳ないよ。
だって、だってあたしが好きなのは・・・

「違うよ、あたし好きな人、別にいるもん」
「は?マジ?誰?教えて〜!誰にも言わへんから」

そう言う忍足くんは嘘っぽかった。

「あのね・・・お、お、お」

あー何どもってんだよあたし。恥ずかしいじゃん。
いつもは普通に言えてるのに、何でこういうときに言えないんだよ。

「お?」
「お・・・」
「お?あー俺?」

どきどきどきっ。流石忍足くん、鋭い。
忍足くんは冗談のつもりで言ったんだろうけど、
あたしは顔を真っ赤にしながら小さく頷いた?

「は?・・・マジ?」

忍足くんは驚いた顔をしていた。

「はートイレに紙なくってさあ、
 一瞬ビックリしたよ・・・って二人ともどーしたの?」
「って岳人、お前ケツ拭いとらんのか!?寄るな!」
「は!?ちっがうよ、ちゃんと拭いたよ、便器に敷く紙で・・・」
「何や、それケツ拭く紙とちゃうやろ」

あのーお二人さん。
あたしまだ食べてる途中なんですけどー・・・。
(忍足くんと向日もだけど)

「ん?何だよ
「な、なんでもねーよおかっぱ!」

自然とあたしは向日のことを見ていたらしい。
うわ、あたし何めっちゃ動揺してんのさ。
意識しちゃうじゃないかよ、あんなこと言われると。

それからあたし達は別れてそれぞれの家に帰った。
三人ともヘトヘトだったし、あたしはなるべくのことなら
二人に会いたくなかった。(特に忍足くん)





家に帰ってしばらくしたころ、携帯にメールが入った。忍足くんからだった。

『今度海いこ!二人で(^o^)』

「よっしゃー!!」

あたしはベッドの上で飛び跳ねた。
お姉ちゃんに「うるさい」って言われた。

今度はちゃんと可愛い水着を買っていこう。










あっこ/030325

(( バックトゥーザフューチャー ))



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