ゲホゲホと彼女が小さく咳をする度に肩が小さく揺れる。 風邪を引いたんだろうか。 (( 春 の 発 熱 )) 何度も呼びかけても視線は空ろなままだった。 「」 「・・・」 「おい」 「・・・」 「!」 俺が声を大きくするとはやっとこっちの世界に戻ってきた。 心なしかほんのりピンク色をしている頬にドキッとした。 「何?」 「何じゃねえよ、大丈夫かお前?」 「は?どういう意味よソレ?」 「さっきから呼んでたんだぞ」 「ええマジで?ごめん。ボーっとしてた」 「ボーっとしてたって…。お前熱があるんじゃないのか?」 「えーそうかもー(ウフ)」 「(キモ)バカは風邪引かないのにな…」 「ハア?(ギロリ)」 「それくらい元気だったら大丈夫じゃねえの?」 「えーなんだつまらん」 「・・・」 俺はハアと溜息を一つ吐いた。 「…で、そんなとこでいいか?」 「ハ?」 「…ハア…。お前一体何聞いてたんだよ」 「ごめーん。なーんにも聞いてませんでしたぁ☆」 「…新入生の歓迎会のことだよ、今週の日曜日に伴爺の家でってことなんだけど…」 「なーんだいつも通りジャンよ」 「俺他の3年に言っておくから、は千石と亜久津に伝えといて。1、2年には部活の時に言う」 「えー千石はまだしも亜久津君?」 「しょうがないだろ、お前等同じクラスなんだから」 「あの人あまり話したことないんだよなーていうか授業出ないしさ」 「ともかく頼むからな」 は口を尖らせて不満そうにブツブツ言いながら自分の席に戻っていった。 帰り際またゲホゲホと肩を揺らしていた。ホントに大丈夫かアイツ…。 「おっと悪い」 振り向く時の教室に入ろうとした生徒とぶつかったが、 よく見るとオレンジ色の頭――千石だった。 「千石」 「何だ、南じゃん。どーしたのこんなとこまで?」 「(何だって何だよ…)いや、ちょっとに…」 「何〜ちょっとって。アーヤーシーイー」 千石はにやにやとやけに語尾を延ばしてその台詞を言った。 「な、怪しいって何だよ!俺はただ歓迎会のことでマネージャーと…!」 「うわっ、焦っちゃって図星!?」 「ハ?」 「照れちゃって!」 俺はまだ言い返そうとしたが、丁度予鈴が鳴ったので急いで自分の教室に戻った。 帰り際、千石がまだニヤニヤしながら「バイバーイ」とにこやかに言っていた。 正直な話、のことは嫌いではない。 だけど、恋とか愛とか、そういう意味じゃない、と思う。思ってる。 (ドキドキする辺りでもうそういう意味なのかもしれない) だけど、俺には彼女がいるし、 - そう、南には彼女がいる。あたしどう足掻いたって、 あたしがいくら南のことを好きだと言っても、それは普遍的な事実なのだ。 (普遍的?あたしが変えるの?) そんなことを考えていると、急に耳にひんやりとした風がかかる。 「ひっ」 ビックリして見てみると、そこには千石がいてケタケタ笑ってる。 つまりはあたしの耳は千石に息を吹きかけられたということ。 「何すんだよもービックリした」 「だってちゃん変な声だすんだもん!アハハ」 「そりゃーいきなり息も吹きかけられれば変な声もでるわ」 「アハハ…、ハハ、…ワッハッハッハッハ!」 「ななな何思い出し笑いしてんのさー(ムカ)」 「いやゴメンホント…ぷっ…(ブブー)」 「あ!そーだ、新入生歓迎会の話なんだけどさー」 「あー(ニヤニヤ)」 「(何、その笑みは)今年も伴爺の家でやるってさー」 「フーン。それよりちゃん、南とはどーよ?」 千石は佐藤君(となりの席の人)のイスにどっこいしょと座る。 (ていうか奥さん、もうチャイム鳴ってまんせ) 「どどどどどうって何ですか(ドキドキ)」 「プッ」 「な!(ムカ)」 「いや失礼。ホント二人とも分かりやすいんだから。カワイーイ」 「煽てても何もでないよ」 - 放課後は具合悪そうに部活に出てきた。 帰った方がいいなじゃないのかって言ったけど、大丈夫、とが言った。 はちゃんと仕事をこなしていたけど、やっぱりどこか具合悪そうにしてた。 部活も後半になった頃、突然がよろめいたと思うとは地面に倒れた。 俺がに駆け寄るとは苦しそうに息をしていて、額に触れると物凄い熱が伝わってきた。 俺は他の部員に断るとを背に抱えて校舎へ走った。 「ゔ…みなみ…?」 保健室へ向かっているとが気が付いたらしく、もごもご言っていた。 「!大丈夫か?」 「……み……あり……う…」 「は!?」 俺も走っていたし、が何を言っているのかはよく聞こえなかった。 保健室には誰もいなかった。 俺はをベッドに寝かせ、適当なタオルを水で絞っての額に乗せてやった。 目は少し潤んでいた。頬はほんのりピンク色をしていた。ドキッとした。 「ごめん……」 それだけ言うと、は目を閉じて、小さな寝息を立てていた。 - 具合悪いといえば朝から具合悪かった。 よりによって部活中なんて最悪だった。めっちゃみんな見てるじゃん。 でも助けてくれたのが南で、千石じゃないけど、あたしってラッキー。 そしてなんと南はあたしをおんぶして保健室に連れてってくれた。 目の前にした南の背中は思っていたよりも大きくて、 いろんな意味で胸がドキドキして、顔が熱かった。 「……みなみ…ありがとう…」 吐き出した声は思っていたよりも弱々しいものだったので、ビックリした。 南は何か叫んでたけど、よく聞こえなかった。 保健室にはいつもいるはずの先生はいなかったようで、 南はあたしを寝かせるとタオルを水で絞っておでこに乗せてくれた。 「ごめん……」 あたしはぽつりと呟いた。聞こえていなかったかもしれない。 まだ胸がドキドキしていた。眠い。 前半、会話ばっかりです。あんまり春とは関係無い。 あっこ/030325 (( 人生後ろ向き )) |
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