漫 画 的 接 触



「これ」

こんな漫画みたいな展開、求めてない。

「落としたけど、君のでしょ?」

不二周助――テニス部のスーパーボーイ(親友談
あたしは彼の試合を一度だけ見て、一目惚れをした。我ながら情けない。

一目惚れ以後、あたしは自分のちっぽけなプライドに勝てずにいる。
告白なんて当然無理、試合の応援にも行ってない。
クラスの男子から彼の名前が飛び出るだけで、心臓は破裂寸前になる。

「違う?」

不二君の、多分あたしよりずっときれいな手には
あたしの生徒手帳が申し訳無さそうに乗っかっている。

多分そう見えるのはあたしが、それを申し訳無いと思っているからだと思う。

「ううん、あたしの!ごめん、有難う!」

精一杯の笑顔で、不二君に近寄ると、彼の手から生徒手帳を拾い上げる。
不二君は少し驚いた顔をして、やがてゆっくり目を細めながら笑った。

「急いでたみたいだね、さん」
「え?」
「走っていたから」

あたしが進もうとしていた廊下の方向を見ながら、不二君が呟いた。
当然のようにあたしは急いでいた理由なんて忘れているから、それに驚く。

「あ、そうか」
「え?」
「さっき放送でさん、呼ばれていたからかな」

あたしさっきから、え?、しか云ってない。
それから、大事なことを思い出す。それから、もっと大事なことに気がつく。

どうして、あたしのこと知っているんだろう。

「あたし、名前、名乗ったかな?」
「ううん」

にこり、と不二君が笑った。

「じゃあ、どうして?」

不二君は笑ったまま答えない。
それからあたしへ目線を落として、

「それより早く職員室行かなくちゃ。先生待ってるよ」
「あ、そうね。有難う」

あたしは不二君に一通りの礼を述べて、その場を後にしようとした。

「そうだ、さん!」
「……え?」
「君に会えると思って、待ち伏せしてたんだ。作戦は成功だったみたいだね」

足が硬直して動かない。
スーパーボーイはいつもより涼しげな笑みで、あたしへそう呟いた。

「それは――どういう――」

言葉が切れ切れになる。
小さな頃から話し上手で有名だった、あたしじゃないみたい。

「好きなんだ。君が試合を見に来てくれた、あの日からね。
 あ、先生待ってるよ?早く職員室行かなくちゃ。返事はいつでもいいからね」

涼しげな笑顔で、手をヒラヒラふりながら、まるで他人事のように彼は消えた。
あたしはまだ、その場を動けないでいた。



「で?」
「ん?」

テニスコートで、リョーマが不二に尋ねる。
不二はいつもと同じ笑顔で、さらりと聞き返した。

「作戦は成功したのか?」

リョーマの隣で後輩に指示をとばしていた大石が呟く。

「うん、まあね。でも彼女、あんまり話をしてくれなかったけど」
「でも良かったじゃないか。話が出来るようになっただけで」

大石の言葉に不二はうーん、と少し唸った。

「やっぱり名前で呼んでみれば良かったかな」

テニス部のスーパーボーイは、さらりと呟いた。







蘭子/030318

( B A C K )




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