( お と ぎ 話 ) むかしむかし、でもない。 結構最近のできごと。 あるところに王子さまがいました。 王子さまは悪い魔法使いにずっと眠ったままにされてしまったのです。 なので、王子さまはいくら怒鳴っても、 いくら叩いても、すやすや寝息をたてていました。 たった一つ、王子さまが目覚める方法は愛する人からの口付けでした。 (そんなお伽話があったとかなかったとか) 「ジロちゃーん、起きてよー」 ここにも悪い魔法使いにずっと眠ったままにされてしまった王子さまが一人。 (悪い魔法使い=眠気を誘う授業をする社会科教師?) 「起っきろー!」 こうなったらジロちゃんはなかなか起きない。 時は放課後、ところは教室。あたし達以外には誰も、いない。 「部活に遅れるよー」 掃除当番の人も6時間目から寝っぱなしのジロちゃんを放置したまま掃除して下さる。 (誰か起こしてくれればいいのに…起きないけど) 「ジロちゃん起きろ!朝だ!給食だ!跡部だ!監督だ!(ちょっと無理ある?)」 同じクラス、同じ部活あるが故、 何故かあたしはいつもジロちゃんを起こす役に回されてしまう。 だから、ジロちゃんの目覚めの悪さはあたしが一番知ってる(つもり)。 むかしむかしあるところに王子さまがいました。 王子さまは悪い魔法使いにずっと眠ったままにされてしまったのです。 なので、王子さまはいくら怒鳴っても、いくら叩いても、すやすや寝息をたてていました。 (ジロちゃんも口付けしたら目覚める?) 周りに誰もいないことを確認して、そっとジロちゃんの顔を近づけてみる。 近くで見ると、ホント、可愛らしい顔立ちをしている。 肌なんか真っ白で、日本人にはあり得ない金色の髪もマッチしてる。 頬っぺたがほんのりピンク色だったりして。 どきどき、高鳴る胸を抑えながら、そっと、口付け。 触れるだけ、のつもりだった。 突然口の中に生暖かいものが入ってきて、 あたしはビックリして身を反らそうとしたけど、 二本の腕に捕まえられて、身動きが取れなくなる。 「んっ…!」 もうジロちゃんの目は寝ていない、今は楽しそうに笑っている。 長い長い口付けが行われる。あたしは、だんだん意識が遠のいていく。 「ぷはっ…!」 危ない危ない、今度はあたしが眠ってしまうところだった。 「もお、ひどい、狸寝入りなんて」 発せられた言葉は切れ切れとしていて、息が荒い。 ジロちゃんは声を上げて笑っている。お腹を抱えてこっちも苦しそう。 「ぷぷっ、だって、いきなりキスしてくんだもん!ははっ」 「呼吸困難で死ぬとこだった…!」 ジロちゃんはまだ笑っている。 顔から火が出るように熱い。穴があったら入りたい。 「くくっ、だいじょーぶ、そん時は、俺が人工呼吸したげるからっ」 「もーこりごりです!」 あーこりゃ部活、遅刻だ。 あっこ/030318 ( B A C K ) |
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