マ ニ キ ュ ア 「臭い」 「臭いわね」 スリザリンの談話室に、暗く冷たい声が二つ。 一つは顔色の悪い男の声で、一つは優しげな眼の女の声だった。 「何しているんだ、」 「マニキュア」 と呼ばれた女は、優しい眼を自分の爪に向けた。 赤い赤い色で、男には少し眩しい。 「セブルス、そう怖い顔しないで」 セブルスと呼ばれた男は、の爪を憎憎しげに見つめた。 二つの表情で見つめられている爪は、少し居心地が悪そうでもあった。 「マグルに貰ったのか」 「そう。面白いでしょ。爪に色を塗るのよ。凄い発想だわ」 そんなの知っている、とでも云うかのように、目の前の本に眼を落す。 「嫌い?」 「臭い。それにマグルが作ったものなんて、僕は嫌だ」 「あはは。 別にあなたに塗りなさいって云ってるんじゃないもの。いいじゃない」 笑い声と一緒にが言葉を吐き出す。 セブルスの顔が、よりいっそう強張る。 「マグルはお嫌い?」 「当たり前だ」 「そう」 「私は、どうかしら」 「どういうことだ?」 は自分の爪に、ふっと息を吹きかける。 首をかしげて、本に眼を落すセブルスを見る。仏頂面で読み続けている。 「私は、ちょっと異質ね」 「異質だな。変わり者で、愚かだな」 「言い過ぎよ。何怒ってるの?」 他人が見たら、いつもと変わらない仏頂面。 から見たら、いつもよりずっと機嫌が悪い顔。 「…怒ってない。それを、早くとってしまえ」 「せっかく塗ったのよ?」 自分の手をひらひらさせながら、残念そうにが云った。 セブルスは顔を顰めると、呟く。 「嫌なんだ」 は呆れたような、嬉しいような、そんな複雑な表情をして一言。 「我侭ね」と呟いた。 「我侭じゃない」 「そう? これは束縛よね」 「……違う、ぞ」 本で表情を隠したまま、セブルスが答えた。 「そう?」 「ああ。でも、」 でも?とが訝しげに尋ねる。 本からほんの少しだけ顔をあげて、セブルスは言葉を吐き出した。 「他の男からの贈り物なんて、受け取ったりするな」 「ふふ、知ってたの? 意地悪だね」 目を細めて、愛しい人の小さなヤキモチに、微笑んだ。 蘭子/030318 >> バック |
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